研究課題
基盤研究(C)
支払決済システムの安定性を維持する一つの方法に預金保険制度がある。しかし、それはモラルハザードを惹起し、結果的に大きな社会的コストをもたらしかねない。代替手段としてのナローバンクは、預金債務の見返り資金をできるだけ安全な資産で運用するよう制約した銀行のことである。しかし、収益基盤の脆弱性故にその実現性に疑問を付す論者は多い。本研究は、IT技術の活用が問題解決に寄与しないかを検討した。ITは効率的なインターネット銀行や電子マネーを支え得るので、支払決済機能に特化した安全なナローバンクもIT化により存立する可能性は高い。しかし、ITとそれに依拠した金融技術について安全性の認識や信頼感の定着が見られない限り、その点をカバーするためのコストは無視できず、ナローバンクの収益性向上にも限度がある。したがって、何ほどかの公的支援があって初めてナローバンクは実現し得るというのが現時点の技術水準とこれを受容する社会環境を前提とした上での暫定的結論となる。ナローバンクを単体で樹立することが収益性の観点から困難であれば、ナローバンク機能を既存の銀行内に分離勘定で持たせる仕組みもあり得る(たとえば、決済専用口座)。問題は分離勘定ながら内部補助をどこまで容認できるかと預金保険制度の対象をナローバンク勘定に限定できるかである。最終的には、預金保険制度とナローバンクの社会的コストの大小いかんが重要な論点で、この点の確定的な実証的結論はまだ得られていない。今後、その点の実証と、さらに各種の電子マネー・スキームを活用した支払決済システムが安全かつ効率的なナローバンクとしての機能を持ち得るかの検討が必要である。電子マネー・スキームについても、その技術や操作上の安全性に対して高い信認が得られない限り、つまり依るべきハードウェア面への信頼感が確立しない限り、ナローバンクというソフトウェアも十全には機能しない。
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関西大学商学論集 第48巻
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現代日本の金融システム(川口・古川) 第10号
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