本研究ではCRD運営協議会から中小企業信用リスクに関するデータの提供を受け、これまでデータの不足で研究対象になりにくかった、中小企業の信用リスクの計量化モデルについて検討した。また、改正BIS規制を考慮し、銀行の内部信用リスク評価モデルを検査する手法を、上述の研究結果をもとに確立した。 具体的な研究対象となったモデル・方法は以下のものであった。 (1)潜在変数の検証 信用リスクモデリングの最大の問題点は、信用リスクに影響を与えるファクターが特定できず、多くの財務指標を取捨選択することが難しいことである。そこでこの研究ではLISRELモデル等、潜在変数の測定モデルを導入し、主成分分析、因子分析といった単純な潜在変数モデルとの比較を行った。その結果ある条件のもとでは潜在変数が有効であることを検証した。 (2)データセグメント・フラグ・ネストの方法と精度 これまでの中小企業信用リスクモデルは業種と規模に対してデータセグメントを行っている。しかし、セグメントによるデータ数の減少はモデルの頑健性を低下させるため、カテゴリー間の調整はセグメントでなく業種フラグやネストモデルの採用によって解決する方が有利である。本研究ではデータセグメントと他の対処方法を比較し、データ数とセグメント数の関係について明らかにし、さらに最適セグメント数の決定方法について考察した。 これらの研究成果は金融庁などの関係当局に置いてすでに公認済みであり、またCRD運営協議会へのフィードバックも行っている。その成果は(1)については統計数理2002年vol2に、(2)については金融庁ワーキングペーパーに発表した。
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