本研究は戦後日本の代表的な民生用電子機器メーカーである松下電器、ソニー、東芝、シャープを中心とする対米マルチナショナル・マーケティングの歴史的分析と比較研究によって、マルチナショナル・マーケティングに先行する輸出マーケティングとの違いを解明した。 輸出マーケティングは、日本を中心として生産された商品の海外市場への長期継続的な販売としてのマーケティングであるのに対して、マルチナショナル・マーケティングとは、多国籍企業が進出国で生産した商品を、原則として現地でマーケティングすることを意味する。この両者における最大に違いは、商品戦略とマーケティング・チャネル戦略に特徴的にみられる。 商品戦略に関しては、輸出マーケティングにおいては、現地の販売会社の担当者の協力のもとで商品の企画を行い、製造は全て日本の本社の商品企画部の主導のもとで行われる。それに対して、マルチナショナル・マーケティングにおいては、商品の企画、製造は本社の協力を得ながら、基本的には現地の子会社の主導のもとに行われる。マーケティング・チャネルに関しては、輸出マーケティングにおいては、現地アメリカのレップやディストリビューターの積極的な活用によって、アメリカ市場に参入することに成功した。それに対して、マルチナショナル・マーケティングにおいては、自己の販売員を活用した直接販売を主要なチャネル戦略とした。その背景には、現地生産による商品の取扱高と種類が、輸出マーケティングの段階とは比較にならないほど増えていることがある。また、アメリカの流通業界においてスーパーストアに代表されるように、巨大小売店の登場がある。 マルチナショナル・マーケティングは、現代のグローバル・マーケティングの段階においても、輸出マーケティングと並んで消え去ることなく存在し、グローバル・マーケティングの実態を形成する重要なモメントとして機能している。
|