1.1985年から1998年にかけて東証一部上場企業の財務・株式データを用い、個別企業のトービンのqの推定を行った。土地の時価への換算については、経済企画庁による商業地インデックスの変化率で調整するという方法をとった。さらに、1990年代の地価税額から逆算した土地保有時価額と照らし合わせて、推定した個別企業の土地時価が妥当かどうかも検討した。また、各企業の保有株式についても各年度末の個別株式価格で時価に換算してトービンのqに反映させた。こうして推定されたトービンのqは、他の業績メジャー(ROA、売上成長率など)との相関も高く、各年度の分布も比較的妥当な範囲であることが示された。 2.各企業について、銀行からの借入の有無、銀行による株式保有の有無を調べ、メインバンクを最大の貸し手であり金融機関借入額の最低でも5パーセントを占める銀行と定義した。また、株式保有構造についても、伝統的な財閥関係に基づく系列企業の持合の程度を双方向的株式所有比率で測定した。一方、垂直関係に基づく産業系列の持合の程度を一方向的株式所有比率で測定した。 3.トービンのqを従属変数とし、メインバンクからの借入比率、銀行・他の事業会社による双方向的株式所有比率、一方向的株式所有比率を独立変数とし、他の関連した変数を独立変数としてコントロールした上で回帰分析を行うと、1980年代後半にはメインバンクはqを低める作用があったが、1990年代に入りその影響は中立になったこと、双方向的株式所有はqに対して負の影響を与えること、一方向的株式所有は正の効果を与えること、など興味深い事実が判明した。
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