「ダイベストメント(企業の資産または事業の売却)が株式価値に及ぼす影響の研究」 本年度は、企業合併・買収とはちょうど逆の経営意思決定である企業資産の部分売却について、その公表が株式価値にどのような影響を及ぼしたかの調査を行った。近年、日本において企業が不採算事業からの撤退やコア事業への資源の集中を通じて株主価値を向上させることが活発に行われている。このような事業再編は、(a)株式持ち合いの解消、(b)年金基金などの機関投資家が「もの言う」株主へ変化していること、(c)外人投資家比率の増加といった株主構造の変化がもたらした企業へのリストラクチャリング圧力が、その一因と考えられる。したがって、予想される結論としては、企業がダイベストメントを公表すると平均的には株価が上昇するというものである。 データとしては、『M&Aレビュー』日刊工業新聞社に掲載された、1998年1月から2004年4月までに行われた事業売却取引のうち東京証券取引所1部上場企業が行った取引でかつ企業規模に対して取引金額の小さいものおよび取引金額が100億円以下のものを除く、62ケースを対象とした。公表日は日本経済新聞に記事が掲載された日とした。企業価値の上昇と下落の評価は、株式市場全体と比較して相対的に株価が異常に上昇したか下落したかの指標を用いた。 主な結論は、(1)公表日前日に株価は平均的に2.7%異常に上昇する、(2)公表3日後から1O日後まで株価は平均的に3.3%と異常に上昇する、であった。(1)に関しては、新聞記事は公表の翌日に掲載されることから株式市場は、ダイベストメントのニュースをよいニュースと評価していることがわかるが、(2)に関する解釈は今後の課題となる。「効率的市場仮説」にしたがえばダイベストメントなどの情報はある程度は投資家から予想されており、通常の実証研究では公表日前に市場価格に反映されているが、今回の研究では公表後に徐々に株価に反映されており、これを理論的に説明することが残された課題である。加えて、ダイベストメントの公表に対する株式市場の反応の変化を時系列的に比較することも必要だと考えている。
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