研究概要 |
「日本企業の株式所有構造における機関投資家(外国人と信託銀行)持ち分比率と企業パフォーマンス」 本年度は、株主の中でも特に企業価値に関して「もの言う投資家」としてその存在感を増している外国人投資家と年金基金が企業価値にどのような影響を及ぼしているかの研究を行った。信託銀行の持ち株の多くは、近年「株主行動主義」を採用し始めた内外の年金基金の運用分が含まれていると考えられる。 かつてのわが国株式市場には、金融機関(主に銀行)と事業法人の持ち株比率が高いという特徴があったが、1990年代の不況期に株式持ち合いが企業や金融機関の経営に与える負の側面が顕著になったため、過去15年にわたって株式持ち合いの解消が行われてきた。1989年に45%を超えた金融機関持ち株比率は、2004年には20%まで低下し、逆に同期間に外国人持ち株比率は、1989年の4%から2003年には20%まで上昇し、信託銀行持ち株比率は、1989年の10%から2002年には18%まで上昇した。 本研究では、銀行,証券、保険を除く東京証券取引所1部2部上場企業から分析期間に継続して上場していた1687社を対象として、企業パフォーマンスを表すと考えられるトービンのqおよび総資産利益率(ROA)が機関投資家持ち株比率の影響を受けているかどうかについて実証分析を行った。対象とした年は、1996年度と2000年度である。 分析は、トービンのqまたはROAを被説明変数とし、機関投資家持ち株比率を説明変数とするクロス・セクションの回帰分析を用いて行った。まず、単回帰の結果、トービンのqとROAを説明する回帰式における機関投資家持ち株比率の係数は有意に正の値を示した。また、1996年から2000年にかけて係数の大きさは1.5倍に増加した。 さらに機関投資家持ち株比率に加えて企業パフォーマンスを説明すると考えられる経営者持ち株比率、負債比率、広告宣伝費、研究開発費を説明変数として、トービンのqを説明する重回帰分析を行った。これらのコントロール変数を加えても期間投資家持ち株比率の係数が有意に正の値を示す結果に変化はなかった。 なお、本研究と昨年度の研究「ダイベストメントが企業価値におよぼす影響の研究」は、日本経営財務研究学会第29回全国大会(2005年10月15,16日、兵庫県立大学)において報告され、現在学術雑誌に投稿中である。
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