新規事業の価値評価は、既存事業に比較するとはるかに難しい。それが困難性を有する最大の原因は、新規事業の価値の大部分が、「その事業自体から直接期待されるキャッシュフロー」よりも、「それが将来新たに生み出すかも知れない投資機会を獲得する権利」や、「事業が軌道に乗れば規模を拡大し、事業の見通しが立たなくなったら規模を縮小あるいは撤退するという意思決定の柔軟性」に基づくものだからである。このような認識の下、本研究が目的としてきたのは、代表的な価値評価手法であるDCF法によっては評価が難しい上記の権利や柔軟性の価値を、金融オプションの評価手法であるオプション価格モデルを用いて算定することである。 1年目(初年度)においては、キャッシュフローの時間的パターン、リスクの種類や時間的推移、意思決定の柔軟性の性質や程度等の基準により、新規事業をいくつかのパターンに類型化するとともに、これまでに発表されてきたオプション価格モデルの中から、新規事業評価に貢献する可能性のあるモデルを抽出した。 2年目(最終年度)においては、ベンチャーキャピタルが実際に用いている企業評価手法や事業評価手法を調査することにより、ベンチャーキャピタルが新規事業のオプション性をどのように捉え、それをいかなる形で評価に反映させているのかを分析するとともに、各新規事業タイプに最も適合した新規事業の価値評価モデルをデザインした。こうして一応の完成をみた価値評価モデルを、さまざまな企業の新規事業やベンチャー企業の評価に適用することによって、事業や企業の価値を算出し、これを経営者の評価や証券市場で形成されている株価と比較することで、両者の間の差異がいかなる原因で生まれるのかを分析・検討した。
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