研究概要 |
今年度はそもそも文献サーベイを中心としつつ,若干のインタビュー調査を行ないながら,徐々に組織設計の本質的な問題を考えていく予定であった.その予定どおり,本年度は数多くの文献を収集・処理し,それをベースとして組織内における意図せざる結果を読み込んだ組織設計に関して,いくつかの仮説構築作業が進められた.典型的には,その作業の成果は,本年度末(3月10日)に出版された『組織戦略の考え方:企業経営の健全性のために』(ちくま書房)にまとめられている.この本の中では,環境に適合しなくなった規則(ルール)を現場のミドルたちは廃棄することができず,むしろ規則をそのままにして,その規則を回避する戦略をとったり,その規則に付加する新たな規則を設けたりすることで必要な業務を遂行していくこと,その結果として,規則に細則が加えられたり,規則のウラをすり抜ける慣行が社内で頻発し始めることなどが指摘されている.こういう多様な行為が積み重ねられることで,規則が複雑化し,環境変化に対する組織内の調整作業が極めて困難になっていく.そして,このような変化によって,組織は大量の心理的エネルギーを外向きにではなく,内向きに注ぎ始め,他社に対する競争優位性を失っていくことが指摘された. また,同時並行して,必ずしも当初予定していなかったけれども,英国の研究者(Silvia Massini)と米国の研究者(Arie Lewin)の共同研究が進展し,日米英の組織に関する比較実証研究の成果も得られた.この成果は,海外の専門雑誌(Research Policy)に掲載された.
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