研究概要 |
本年度の研究は,基本的に,日本企業の過剰分権化現象を因果論的でありかつ,解釈学的なプロセスとして理論化するものであった。筆者はまず昨年の段階で「日本企業が過剰分権化されているのではないか」という仮説を『組織戦の考え方』(ちくま新書)の中で展開していた。そこではミドルの創発的戦略を重視してきた日本企業が,多数のミドルたちの自主的な努力を通じて,却って多数の複雑な手続きやルールが発達し,多様な部署の間の分化が進みすぎ,結果的に日本企業を特徴づけてきたミドルたちのヨコの連携を基礎にしたシナジーの発揮が非常に難しくなってしまったのではないか,という問題意識が提示されていた。 この過剰分権化状態の難しいところは,それをミドルが自らは解決できず,またそれを自ら認識すらしていないかもしれないというところにあった。今回の『組織科学』の論文は,この日本企業の過剰分権化問題が,実はミドルたちに正しく認識されていない,という問題が発生するメカニズムを試論的に展開している。過剰分権化は当事者にとって「組織の重さ」として認識され,その「組織の重さ」故に更なる分権化を推し進めようという提案が提示されていくという悪循環が生じている,というのが『組織科学』の論文の基本的な主張である。そしてそのプロセスを解明する上では,組織現象が因果的な結びつきをもつものであると同時に,解釈学的な側面も持つものであるというスタンスが重要である,ということを主張したのである。 なお,これ以外に,1990年代の日本の組織とヨーロッパの組織を比較した実証研究の結果がSage社から出版され,その編集作業と,収録論文作成の両方の成果が本年に提出されている。
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