研究概要 |
本研究の研究実績は方法論と日本企業の現実という2つの側面から捉える必要がある. まず第1に方法論上の研究実績として指摘するべき点は,行為のシステムとして企業組織及び経営環境を捉える視点(拙著『行為の経営学』の視点)を組織設計論の領域で展開したということであり,また,行為のシステムが生み出す「意図せざる結果」を考察することで,それを事前に読み込んで組織設計に活かすという組織設計論を展開することであった.行為のシステムとして組織を捉えることで,具体的に示唆された仮説は次のようなものである. (1)組織成員たちが「組織が重い」と感じる状況下では分権化を更に進めると却って組織運営を困難にさせることがある.この場合には分権化を進めるのではなく,逆に集権化あるいは権力の再配置を行なうことが適切である. (2)互いに機能的に相互依存している2つの部門の調整が難しくなっている状況下で,両者の調整を専門に行なう調整担当役を設置することが,却って両方の部門の調整困難度を高める可能性がある.2つの部門の対立が発生しているようにするほど,調整担当役の組織内での価値が高まるからである. (3)2度と問題が発生しないようにという意図で組織内の規則を厳格化・詳細化することは却って同種の問題を深刻化させる可能性がある.この場合には,むしろ一定のレベルまでの事前調整の問題とし,それを超えた部分を管理者による事後調整に残すべきである. これらの示唆は,実際のところ,現在の日本企業の組織に見られる多様な混乱を実証的な知見として収集・活用することで得られたものでもある.これが本研究の実績が持つ第2の側面である.「失われた10年」以来,わが国の大規模企業の組織には,これらの「意図せざる結果」を読み込まずに行なわれた多数の組織改革が発生し,それ故に却って組織問題を深刻化させてきたという側面があるのである.
|