交付申請書に記載した3つの研究目的に関して、研究成果の現状を記すと以下の通りである。 1.日・米・独の職能給の比較から、次の3点が明らかになった。 (1)賃金総額に占める職能給のウェイトに関して、日本と米・独の間で差異が認められる。すなわち日本の場合には基本給の一部が職能給である場合が多いのに対し、米・独の場合には基本給の全てが職能給になっている。 (2)昇格・昇給等に際して人事考課等の評価制度を活用している点では、3カ国の職能給制度は共通している。 (3)職能給の設計・運用プロセスへの従業員の参加に関しては、3カ国で次のような共通点と相違点が認められる。ドイツでは経営組織法に基づく事業所レベルの従業員代表である経営協議会が、米国の組合組織企業ではローカル・ユニオンが、職能給制度の設計・運用に深く関与している。日本でも、人事考課に関して、近年は異議申し立て制度を導入する企業が増加する傾向にある。このように、関与の主体は3カ国間で相違するものの、従業員参加を取り入れる方向性では共通傾向を認めることができる。 2.職能給採用企業の戦略的・組織的特性に関しては、現在、収集資料の分析を行っているところであり、この点の研究は今後の課題である。 3.1990年代以降における職能給の新たな動向に関しては、日米間で対照的な動きが認められる。すなわち、日本では基本給の成果主義化(職能給の強化、基本給への業績給ないし成果給の導入、職務給体系への移行、管理職への年俸制導入)が顕著であり、賃金・処遇の基準が能力から仕事へ移行しつつあるのに対し、米国ではホワイトカラーを対象に職級数を減らす一方で職級別賃金率の幅を拡大するブロードバンディングが普及し、賃金・処遇基準の仕事から能力への移行が進みつつある。
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