平成15年度は、介護保険制度のもとで新たに展開されつつある小規模生活対応型特別養護老人ホーム(ユニットケア施設)と従来型の特別養護老人ホームを、サービス組織におけるマネジメントの観点から比較検討した。 小規模生活対応型特別養護老人ホームは、介護現場の長年にわたる課題を解決するための端緒となりうるサービス組織であるが、その導入によって直ちに、(1)介護職員の日課が全廃されて、職員はいつでも自由に動けるようになる。(2)決められた時間に利用者を介助する方式(画一的な介助)は改められ、利用者は自由にサービスの提供を受けることができるようになる。(3)少ない職員でも十分に日常的な介護をこなすことができるようになる。(4)個々の利用者のニーズに合わせたケアを提供できるようになる。等の誤解を生むような状況に陥っている。他方、従来型の老人ホームは優秀な管理職が少なく、しかも未熟練の介護職員の割合が高い環境を前提にしたものであり、質の高い介護サービスは無理であるにしても、日常的な介護を提供するための「弱者の戦略」に立った介護サービス組織である。 そこで、これら2つの介護サービス組織を4つの分析視点、すなわち(1)介護サービス組織における組織編成、(2)介護サービスの画一性、(3)利用者・家族との関わり、(4)介護サービスの質を保証するサービスシステムの点から比較した。小規模生活対応型特別養護老人ホームは個々のユニットを支える十分な数の熟練した介護職員を配置するとともに、優秀な管理職を一定数以上確保することが存続の条件であり、環境適応力が極めて劣っている点が明らかとなる一方、従来型の老人ホームは厳しい環境下で存続してきた長い歴史を持ったものであり、洗練された安定した介護サービス組織である点が明らかとなった。前者が新入職員の教育態勢を整備しにくい組織構造であること、未熟練介護職員が個別ケアと称して劣悪なサービスを提供することを管理しにくい実態にも言及した。
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