まず、19世紀後半から今日までの対日直接投資の動向を整理した。明治の開国からいわゆるバブル経済崩壊後の不況期にいたるまで、対日直接投資が長期にわたって低水準にとどまってきたこと、また最近になって外国企業による日本進出が急増していること、について確認した。その上で、直接投資の重要な理論枠組みととらえられているOLIフレームワーク(競争優位、立地優位、内部化インセンティブの3変数の組合せで直接投資説明する)で、こうした対日直接投資の状況をかなり説明できることがわかった。 しかし昨今の多国籍企業は、戦略提携、後天的(created)資産などのキーワードを鑑みるとき、その行動原理を従来の理論モデルで説明することがますます困難となりつつある。OLIフレームワークに即していえば、競争優位(O)は所与であり、直接投資の必要条件であるというよりは、直接投資を通じたグローバルな事業戦略を展開した結果として事後的に形成されるものであり、そうした多国籍企業のあたらしい行動を前提とした上で、国は立地優位(L)を提供していく必要がある。さらには、既存のOと上述のような意味合いでのLとの組み合わせから、あらたなOを形成していく、という今日の多国籍企業の行動を考慮すると、国境を越えた取引の有り様にも影響が及び、それは取引を内部化するインセンティブ(I)にも影響してくる。以上のことが、先行研究のサーベイ、在日外資系企業に対するヒヤリング、新聞・雑誌等の記事サーベイを通じて明らかとなった。 以上の研究実績をベースとして、次年度は、対日直接投資を説明する上で、既存のOLIフレームワークに代わるあらたな理論モデルの構築を目指す。また同時に、在日外資系企業に関するデータベースを構築して、実証研究を行う予定である。さらには、あらたな理論モデルの延長上に、対日投資誘致に向けてのあるべき政策提言も行う予定である。
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