本研究では、対日直接投資の動向を理論的に考察するにあたり、投資実施主体である多国籍企業の意思決定プロセスに注目して、国際生産の理論的フレームワークとして知られるOLIパラダイムの応用による説明を試みた。その結果、(1)明治維新以来、長期にわたって日本の対内直接投資がきわめて低い水準で留まってきたこと、(2)1990年代後半以降、対日直接投資は増加基調に転じたこと、がある程度までOLIパラダイムで説明可能であることを確認した。しかしながら近年、グローバル競争が進展するにつれ、企業が競争優位を獲得する上で不可欠な知識・能力の所在は世界規模でますます分散化する傾向を強めている。その結果、多国籍企業はかつてのように所有優位を武器に国外進出をするのでなく、所有優位を強化・創造してあらたな競争優位を獲得する目的で海外直接投資を行なうようになっている。こうした多国籍企業のあたらしい戦略を与件とすると、OLIパラダイムを構成した3要素のそれぞれを、次のような方向で再評価することで、対日直接投資の理論分析をあらためて考察しなおす必要が出てくる。(A)直接投資の流れを規定するのは既存の0優位の企業間格差ではない。0優位がむしろ国際的に拮抗する中で、あらたな競争優位を創出していこうとするダイナミズムが直接投資の原動力となる。(B)トランスナショナル経営あるいはメタナショナル経営の時代にあっては、立地特殊的優位として重要なのは技術、知識、スキル、イノベーション能力など、後天的な資産である。そうした後天的資産をいかに蓄積し、多国籍企業による国内拠点にどのような戦略役割を期待するかが、多国籍企業の誘致政策を効果的に展開する際には重要となる。(C)後天的資産は企業特殊的・文脈依存的性格を持つため、内部化インセンティブの分析において、戦略提携の役割がさらなる重要性を帯びてくる。(786字)
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