本研究では、利益概念と会計の職能の関係に焦点を当て、会計基準等の制度的な観点と、会計理論上の概念フレームワークの観点の2つの観点から、両者の相互関係について調査研究を行った。具体的には、イギリス、日本および国際会計基準および概念フレームワークを取り上げ、それらと利益概念との関係を検討した。 日本の会計基準のうち、商法系統に属するものは、利害調整機能を志向し、実現利益概念を採っている。これに対して、証券取引法系統に属するものは、情報提供を志向しているが、利益概念としては実現利益概念を採っている。このことは、日本独自の概念フレームワークからも明確に窺える。 国際会計基準が予定していると思われる会計職能は、企業価値の推定に役立つ情報の提供というよりも、企業価値そのものの計算にあること、また利益概念としては、これまでの実現概念を放棄し、企業価値の期首期末の差額としての利益であるとの知見を得た。 イギリスの会計基準(財務報告基準)は、基本的に情報提供機能を志向している。しかし、純利益のような特定の数値に意味を持たせるのではなく、収益費用として計上されたそれぞれの項目に意味を持たせる情報セットアプローチを採っている。この点は、世界的に見ても初めての試みであり、今後、このアプローチが支持されていくのか否か、注視していく必要がある。 以上のことから、つぎのような知見を得た。すなわち、会計職能と利益概念との関係が1対1の対応関係にあるのではなく、1対多の対応があり得ることを示唆するものである。
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