本研究では、次の4つの研究目的を設定している。 (1)企業の事業活動のリスクおよび不確実性に関する情報開示の実態をわが国のみならず国際比較を通じてサーベイし、グローバルな観点から、開示すべきリスク情報および不確実性情報の内容を帰納的に抽出し類型化すること (2)リスク情報および不確実性情報の開示の判断指標および判断規準を会計理論および監査理論の観点から解明するとともに、それに加えて当該判断指標、規準の開示実務への適用可能性を検討すること (3)リスク情報および不確実性情報の開示に積極的な企業とそうでない企業について、経営成績や企業価値の側面において統計的に有意な差異が認められるか否かを実証的に明らかにし、リスク情報および不確実性情報の有用性を解明すること (4)会計監査においてリスク情報および不確実性情報に対する監査のあり方を理論面から解明し、いわゆる未確定事項の取り扱いに関する理論モデルを提示し、その監査実務への適用可能性を実証すること 本年度は、上記(1)および(2)の目的を達成すべく、研究を実施した。得られた知見などは次の通りである。 まず、「研究目的(1)」について、企業のリスク情報および不確実性情報(以下、リスク等情報という。)に関する開示基準が整備されている米国、英国および独国につき、法定開示情報書類を収集し、当該情報書類からリスク等情報を抽出する作業の途上にある。これらのデータは、わが国において利用可能な形で一般に利用可能でないため、かかる意味において重要なデータである。 次に、「研究目的(2)」について、リスク等情報の対象となるリスクおよび不確実性の程度、あるいはそれらの原因となっている事象や状況あるいは経済的取引の性質を理論的に分析し、これらの要素がどのように変化した場合に開示の対象とすべきであるのかについて、その判断指標ないし判断規準を演繹的に導出すべく、上記3カ国の監査基準や法令を参照し、開示情報の有用性(会計理論の応用)および開示情報の信頼性(監査理論の応用)の両側面から、開示すべきリスクや不確実性あるいはその原因事象等を判別するための判断指標ないし判断規準を整理した。
|