研究概要 |
大域的特異点論(Global Singularity Theory)の研究の中心に位置する問題として,C^∞級多様体M^n, N~p間のC^∞級安定写像f : M^n→N^pの特異点集合S(f)の位相構造と定義域多様体M^nとの関係を調べた.この分野の古典的結果は,特異点集合の相対的配置を表現するThom多項式の概念に密接に関係するLevineによるカスプ消去定理がある.これはR^2へのC^∞級安定写像に現れるカスプ特異点の消去可能性が定義域多様体のオイラー標数の偶奇できまるという結果である.これを雛形として,一般の場合のC^∞級安定写像の特異点集合の消去可能性を考察するのが本研究課題の目的であった.ここでいう一般の場合とは,値域多様体が3次元以上のユークリッド空間のときの考察を意味する.すなわち,ある意味で「モース理論の一般化」を目指す方向性をもつ研究である.値域が3次元以上になると特異点集合が次元をもつため問題は格段に難しくなる. 本年度の研究では,Morin写像に対して特異点集合S(f)の自己交叉類(特異点集合を摂動してできる共通部分を整係数ホモロジー類と見て,そのポアンカレ双対を取ったコホモロジー類)を定義して,それが定義域多様体のある次数のPontrjagin類に一致すること,さらにその結果に伴い,この自己交叉類がある意味で,特異点消去の第二障害類であることを示した.(Thom多項式は特異点消去のための第一障害類である.)言い換えると,Morin写像が存在するための必要十分条件が自己交叉類がある限られたコホモロジー類の集合に属することとして定式化できるという結果を得た.
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