研究概要 |
本研究は絡み目やグラフの位相不変量について,それらを計算の理論の観点から研究し,実際に計算するための効率的なアルゴリズムを開発することが目的である. 平成14年度における本研究の主な成果は以下の通りである. 1.絡み目の最も代表的な多項式不変量の一つであるJones多項式の計算は一般には困難であると思われるが,本研究では,任意のArborescent絡み目のダイアグラムに対して,そのKauffmanブラケット多項式(Jones多項式)はそのダイアグラムの交点数の3乗のオーダーの時間で計算できることを示した. 2.2つの絡み目が同値であるかを判定する問題に関連して,次のことを示した.ある素な交代絡み目の既約なダイアグラムが2つ与えられたとき,一方を他方に移す,もとのダイアグラムの交点数の3乗のオーダーの長さのflypesの列が存在する.このことから,2つの素な交代絡み目の既約なダイアグラムが同じ交代絡み目のダイアグラムであるかどうかを判定する問題はNPに入ることも示すことができる. 3.ブレイド群における共役問題の難しさに安全性の拠り所をおいた公開鍵暗号系の提案など,ブレイド群に関する計算問題の計算量解析は,応用も含めて活発に研究されている.W.Thurstonは,多項式時間で構成可能な標準型を提案し,等価性判定問題が多項式時間で解けることを示した.E.S.Kangらは,紐の交差を複数まとめた生成元であるband generatorという概念と,この生成元を用いた表現に対する標準型を提案し,紐の本数が4本に限定された場合の共役問題が多項式時間で解けることを示した.これに対して本研究では,ブレイドの長さの2乗のオーダーの時間で標準型を構成するアルゴリズムを提案した. 4.Brassardらが考案した量子アルゴリズム,Qsearch,を用いた,グラフの,クリーク発見問題,サイクル発見問題,二部グラフ判定問題の量子アルゴリズムを提案し,その計算時間を評価した.
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