研究概要 |
本研究は絡み目やグラフの位相不変量について,それらを計算の理論の観点から研究し,実際に計算するための効率的なアルゴリズムを開発することが目的である. 平成15年度における本研究の主な成果は以下の通りである. 1.Hass-Lagarias-Pippengerは結び目理論における多くの判定問題について計算量の解析を行ったが,その中で,結び目の自明性判定問題と絡み目の分離性判定問題がNPに含まれると種数判定問題がPSAPCEに含まれることを証明した.Algo-Hass-Thurstonはさらに一般的な3次元多様体内の結び目の種数判定問題がNP-完全であることを証明した.この問題は3次元多様体とその中の結び目と非負の整数を与えたとき結び目が多様体内でその種数の有向曲面の境界となるかを判定する問題であり,多様体を球面とすると先の種数判定問題となる.本研究において,自明性判定問題の補問題である非自明性判定問題を解く対話証明系を構成し,この問題がIPに含まれることを証明した. 2.結び目理論では,主として結び目を分類・特徴づけることを目的に,様々な絡み目の不変量が定義され研究が行われている.Jones多項式は最も代表的な多項式不変量であり,Kauffmanによる絡み目のdiagramから組み合わせ論的にblacket多項式を計算し,writheと組み合わせてJones多項式を決定する方法が知られている.一般にJones多項式は絡み目の判別能力に優れているとされるが,Kauffmanの計算法では2の交点数乗個の多項式の和を計算しなければならない.実際,Jones多項式の計算は#P困難であることが示されており,最悪指数時間かかると予想される.本研究において,標準的な2橋絡み目diagramのblacket多項式と閉3組み紐絡み目diagramのblacket多項式が多項式の線形時間で計算できることを示した. 3.上記の結果を計算機に実装し,非常に高速に(PCで,10000交点の場合でも十数秒で)計算できることを確認した.
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