本年度は、(1)各個体が一度感染すると未感染状態に戻らない場合に、一様な個体群中を伝染が空間的に伝わる状況を記述する伝染病伝播の数理モデルについて調べた。このとき、病気の広がりは個体群中を一定の波として伝わることが期待できるから、伝染病の空間的伝播を記述するモデル方程式の解として、波形解が存在するのかどうかがまず課題となる。ついで、伝染病の伝わる速さ、伝染病の発生範囲、伝染病が通過した後の状態などが問題となる。伝染病の空間的な伝播を記述する決定論的モデルのひとつのクラスである反応拡散モデルについて、様々な伝染病の空間伝播モデルの中での反応拡散モデルの位置づけを明らかにした上で、その進行波解を通して上記の問題を考察した。とくに、伝播速度の評価を得るために広く用いられる線形予測(Linear conjecture)について検討した。これまでに得られている結果の範囲では、感染者と未感染者の感染機構が2次の非線形性で表されるときには、線形予測が成り立つが、より高次の感染機構を仮定すると線形予測が成り立たないことを指摘した。したがって、伝染病モデルにおいて、伝播速度の評価に線形予測を適用するときには注意が必要であることが示された(「応用数理」第14巻2004)。 上記研究と関連して(2)高次自己触媒反応拡散系において、自己触媒と反応物がともに空間的に拡散する場合について昨年度の研究を発展させた。すなわち、進行波解の存在と速度の拡散係数に対する依存性を、相空間における比較定理に基づいて、一定の条件の下で厳密に明らかにすることができた。その結果の発表については現在準備中である。
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