1、昨年度の感染者-未感染者の2成分反応拡散モデルに基づく伝染病伝播モデルに引き続いて、G.Dwyerにより提案された病原菌-感染宿主-未感染宿主の3成分反応拡散モデルについて調べた。G.Dwyerの結果を数値シミュレーションにより検討し、病気の伝播速度が線形予測による予想される値とほぼ一致すること、およびKermack-McKendrickモデルと同様、閾値現象が現れることが確認できた。さらに、拡散のない場合に、対応する3成分常微分方程式系において、ホップ分岐が起こることが期待されるが、多くのパラメータが方程式に含まれているためホップ分岐の起こるパラメータ領域を特定できていない。それを明らかにするのは今後の課題である。 2、昨年度までの研究では、感染者と未感染者の感染機構が2次の非線形性で表されるときには、線形予測が成り立つが、より高次の感染機構を仮定すると線形予測が成り立たないことを指摘した。しかしながら、伝染病モデルと同様の非線形相互関係を表すモデルである餌食と捕食者モデルにおいては、2次の非線形性の枠の中でも線形予測が成り立たない可能性があることが特異摂動の視点から分かった。この厳密な解析も今後の課題である。 3、Lotka-Volterra2種競争系において、共存状態が安定な場合に開放空間への侵入を記述する進行波解について、すでに非常に複雑な挙動をすることを数値的に明らかにしている。この問題に関して、今年度はH.Weinbergerらとの議論により、解の挙動について積み重なり波(stacked wave)の存在や進行波解の形成についてどのような状況が考えられるか次第に明らかになってきた。その議論に基づいて、さらなる数値シミュレーションを行っているが、残念ながら、まだ数値的にも全容を明らかにすることはできていない。
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