研究概要 |
研究代表者である新井仁之は,まず2次元トーラス上のウェーブレットについて調べ,その視覚情報処理への応用を与えることに成功した.ここで視覚情報処理とは,人間が眼球から入ってきた外界の情報が,網膜,外側膝状体,さらに大脳皮質において処理される過程を指している.新井は2次元トーラス上の離散極大オバーラップ双直交ウェーブレットと新しい非線形処理により,錯視のコンピューターシミュレーションを与えることに成功した。錯視は人間の視覚情報処理を研究するキーの一つとして知られている。本年度は人間の特にV1野での神経生理学的な事実を踏まえて,ウェーブレットを用いた画像処理システムを設計した.今回得たこのシステムを用いて,明暗に関する多くの錯視に対するシミュレーションを与え,錯視発生のメカニズムを解析した.これにより,V1野までの情報処理で発生する錯視を数学的に詳細に分析できるようになった.また多次元離散推移不変線形システムのBIBO安定性の解析ならびにそこから現れるいくつかの数学上の問題について研究も行った.まず多次元離散推移不変線形システムの一般論を整備し,緩増加超配列を急減少配列に連続的に写す線形写像のことを線形システムであると定義し,これに関する数学的な一般論を展開した.さらに,伝達関数によるBIBO安定性の判定について,1次元の場合と多次元の場合に関する新しい定理を証明した.詳細は新井仁之による著書『フーリエ解析学』として発表した.なお分担者の山田はウェーブレットによる地震波の解析,岡田はウェーブレットによるいくつかの非線形偏微分方程式の数値解析,中村は離散シュレーディンガ方程式について成果を得た.
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