研究概要 |
無限次元タイヒミュラー空間のモジュラー群の作用に関して,次のような新しい結果を得た. (1)モジュラー群によるタイヒミュラー空間の一点の軌道を考える.軌道の点はすべて同じ複素構造をもつリーマン面に対応するが.ある複素構造に別の同一の複素構造の列が収束していくという奇妙な現象が無限次元では起こる.モジュライ空間でみれば,タイヒミュラー空間からの商位相について第一分離公理がみたされないということと同値である.この現象は,リーマン面にある双曲幾何的一様性を仮定し,モジュラー群が不連続に作用しないようなタイヒミュラー空間においては,一般的な現象であることを証明した.方法は可算と非可算の対比であり,可算はリーマン面の可算コンパクト性に由来し,非可算は軌道の閉包が完全集合となることに由来する. (2)有限次元タイヒミュラー空間上のニールセン実現問題とは,モジュラー群の任意の有限部分群(楕円型変換群)に対して,それを部分群として含む固定化群をみつけることであり,解決されている.無限次元タイヒミュラー空間にこの問題を拡張し,軌道が有界であるような任意の部分群に対して,それを部分群として含む固定化群が存在するかどうかという問題に定式化した.この問題は任意の擬対称群は擬対称自己同相写像によりフックス群と共役であるかという問題から従う.擬対称群はは一般に同相写像によりフックス群と共役であることが証明されているが,ニールセン実現問題は,この共役を与える同相写像の歪曲率を評価することとみなせる.群同変な同相写像により与えられた単位円板の測地三角形分割を用い,擬対称群の各元を測地線に沿う地震変形で表す.測地線に沿うずれの大きさを一次元に退化した歪曲係数とみなし,擬対称群の元全体にわたる歪曲係数の「平均」をとり,その大きさの評価から歪曲率の評価を導く方法を発見した.
|