研究概要 |
タイヒミュラー空間は非等質的な空間であり,モジュラー群は推移的には作用しない.コンパクトリーマン面の場合,モジュラー群の作用は不連続であるが,タイヒミュラー空間が無限次元になるとこの様相は一変する.従って,軌道の集積点集合を考えれば,メビウス変換のクライン群や有理関数の反復合成と同様に,極限集合(ジュリア集合)の概念を導入することができる.このカオス的様相とタイヒミュラー空間の非等質性をあわせて,無限型リーマン面のモジュライ空間を新しい研究対象としてとらえなおした.加えて,高次元代数多様体のように,安定多様体に限定してモジュライ空間を考えたほうがより計量幾何学的な構造を導入できる事例をみて,モジュライ空間の縮約による構成法が重要であることに気が着いた. 一般位相幾何学的には,このモジュライ空間は距離付け可能な場合と第一分離公理すらみたさない場合の両極にわかれ,しかも自己同型による対称性の高い場合ほど後者になることがわかった.しかし特異性は一部分にしかなく,残りはよい構造(複素バナッハ構造など)が入りうる部分である.このような安定領域をリーマン面の双曲幾何学的特性で特徴づけ,安定領域を完備化することにより,複素構造全体をある同値関係で縮約したモジュライ空間を構成した.具体的には,1点集合の閉包(これを新たに1点とみなすことが縮約に相当する)をリーマン面上の幾何で記述することが可能になり,意味のあるモジュライ空間の点とは何かを具体的に与えられようになった.方法はタイヒミュラーモジュラー群の作用の力学系に関する議論であったが,擬等角写像,関数空間上の合成作用基,双曲幾何学,保型関数などからの結果を組み合わせて用いた.
|