この間の研究内容は、確率論的観点から、退化拡散過程に対して費用関数を最小にする最適政策を決定する問題に焦点をあてたものである。成果は次の通りである。 (1)費用関数を最小にする最適政策と最適停止時間を同時に求める問題に関して非線形変分不等式の研究分野を開拓したことである。2003年の論文Variational inequalities for combined control with stoppingでは、非線形変分不等式の粘性解は通常の定義では不備があるために新たな定義を与え、Bensoussan-Lionsによる線形変分不等式に対するペナルティ法を発展させて、粘性解が一意に存在することを示した。またゲーム問題についても対応する結果が得られることを示した。 (2)論文Variational inequalities for leavable bounded-velocity controlにおいて非線形変分不等式の粘性解がどのような条件のもとで古典解になるかという問題に解決の糸口を見つけたことである。最近では、粘性解を求めて、その滑らかさを調べて最適政策を構成する方法はHamilton-Jacobi-Bellman方程式に関しては良く研究されている。また、数理経済への応用として再生性のある資源に対して最適消費量を決定できることを示した。この論文では非線形変分不等式については、同様の手法が通用することを究明した。すでに、この方法をノーベル経済学賞受賞者Mertonの数理ファイナンスに関する問題へ適用し、その結果は論文として投稿中である。今後、様々な最適問題に応用できることが期待できる。
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