この研究では次の2つの課題を追求した。1.高次元Palis予想を一般次元で解決することと、2.解決後の研究のために力学系理論の新しい方向を模索すること。 課題1については、いくつかの国際会議で成果を発表し、現在準備中の論文において、その解決を宣言している。しかしながら、証明についてはまだ専門家の認めるところではない。全体の証明は大きく分けて次の3つの部分に分けることができる。微分同相写像がPalis予想で想定されているホモクリニック分岐を示すもので近似できなしとき、双曲型(Axiom A)であることを証明する過程として、 (1)エルゴード閉補題の拡張を用いて、エルゴード測度の台の上にリアプノフ分解に関連する優越分解を構成する部分。 (2)そのエルゴード測度上の優越分解では、リアプノフ指数0に対応する部分空間がゼロであること。つまり、双曲型エルゴード測度であること。 (3)その双曲型エルゴード測度の台の閉包が実は双曲型不変集合であり、しかもその双曲性が(微分同相写像の近傍に関する)一様性を持つことから非遊走集合上の双曲性まで示せること。 当研究費交付期間中に、(1)についてはプレプリントとしてまとめ、(2)と(3)については現在、執筆中である。 課題2については、まだ課題1が終了していないため、本格的な研究成果はまだないが、スメールの提起した「複雑さ」や計算機科学に関連する新しい方向に興味を持ち、スメールの観点の研究と力学系理論への応用の可能性を考えた。京都での国際会議"New Directions in Dynamical Systems"をはじめ、いくつかの研究集会に参加し、雑誌「数理科学」や「数学セミナー」の執筆では、この研究の成果がもとになっている。
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