研究概要 |
通常の確率空間においては、その空間上の確率変数のなす関数環と期待値の組を考えると、この組には元の確率空間を復元するに足る情報が含まれている。このことより、非可換確率空間とは、この関数環を非可換化することによって考えられる。通常の独立性の概念をこの非可換確率空間に導入することは、もちろん可能であるが、それでは非可換性が十分に反映されたものとはいえない。Voiculecsuにより、導入された自由独立性は真に非可換性が反映された独立の概念のひとつである。独立性が混合モーメントの計算則を与えるものと考えると、ある種の公理の下では、非可換確率空間の独立性としては、通常の独立性(Bose Fock spaceに対応),ブール的独立性(Fermi Fock spaceに対応),自由独立性(full Fock spaceに対応)の3種類しか(陽には)得られない。しかし、独立性の概念は合成積を定め、合成積はモーメント・キュムラント関係式を導くことに着目することにより、本研究では、モーメント・キュムラント関係式の変形により、新たな独立性の導入を行うことを目的としている。本年度は1径数変形であったBozejko氏のt-変形の2径数変形(一般化された)t-変形の研究をポーランドの研究者と共に行った。これは、もちろん従前のt-変形を特別な場合として含み、また、2径数化することにより、組み合わせ論で研究されているDyck経路の数え上け母関数との密接な関係がより明らかになった。一般化t-変形に関しては論文としてまとめ、現在学術雑誌へ投稿中である。H16年度中には、その出版の掲載に関して確定するものと思われる。また、Dyck経路との関連についての論文は現在、投稿準備を行っている。今年度は特に、量子確率論のポーランドの関連研究者を本補助金により招聘し、研究討議を行ったことは、今後の本研究の発展に大きく寄与するものと思われる。
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