研究概要 |
本年度は,本研究期間(2年間)の初年として時間大域的に安定性と信頼性の保証された離散スキームの構成を中心に研究を進めました。無限次元力学系理論を含む抽象放物型発展方程式論の専門家であるファビーニ教授(ボローニャ大学)および朴教授(釜山大学)を招聘し最新の研究結果の提供を受けるとともに研究課題についての議論を交換しました。共同研究者の辻川教授(宮崎大学)を大阪大学に招いて打ち合わせ会を数回に渡り開いたのを始め,本研究課題に関係する国内各研究者と交流し研究計画の進展を図りました。また,関係方面の情報を得るために洋書・和書を購入しました。このような研究活動から,バナッハ空間においてCo非線形半群から決まる力学系の指数アトラクターに対して,時間大域的に安定でありかつ誤差が大域的に一定に保たれるような離散スキームの構成に成功しました。本スキームの性能を実際のシミュレーションを通して評価するため,高性能なパーソナルコンピュータを組み上げ,パターン形成モデルとして注目を集めている走化性方程式と白金表面上の一酸化炭素吸着方程式に対して適用し数値計算を実施しました。膨大な計算データを処理し,計算データを可視化してその中からパターン解を探す作業には,高性能な処理ソフトがまだ未開発なために多くの労力と時間を必要としましたが,その作業の一部を大学院学生に担当してもらいました。その成果として,指数アトラクターは,確かに近似スキームの大域的な安定性に貢献していることが明らかになりました。計算誤差は,初期の摂動には敏感であるものの,ひとたび指数アトラクターに引き寄せられると以後はずっと安定であることが明らかになりました。このことから,本スキームを相互作用と反応を含む拡散方程式系に対して適用する際の信頼性が評価されました。
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