研究概要 |
本研究における主要な成果は,多様体上の磁場における力学系の量子・古典対応に関するものである。この成果は,まず,平成14年10月28日〜11月1日に京都大学数理解析研究所で開催された国際会議「微分作用素のスペクトルと逆問題」において,「Quantum energies and classical orbits in amagnetic field」と題した講演で発表された。そして,結果の細部を詳細に論じた論文が,会議の報告集におさめられ,アメリカ数学会から2004年に出版された。 得られた成果の要約は以下のとおりである。多様体上の磁場は幾何学的には主ファイバー束における接続の曲率として定式化され,磁場中の荷電粒子の運動を記述する力学系は,主ファイバー束上のKaluza-Klein計量による測地流の力学系として考察することが出来る。この様な定式化に基づいて,磁場中の古典力学系の周期軌道と量子力学系のエネルギーの漸近的な振る舞いの半古典的性質の関係を明らかにした。より具体的に,ある種の量子化条件を満たす古典周期軌道が存在すれば,その周期軌道に対応した量子エネルギー準位が半古典近似の意味で存在することが示された。 この結果は,1970年代中頃J.V.RalstonやV.Guilleminによって測地流の力学系について得られている結果の磁場版と見なせる。また,Gutzwillerによる(発見的に展開されている)跡公式の厳密な取扱いの一つと目指すものであると考えられる。この結果の証明には,Guillemin達によって考案されたエルミート型のフーリエ積分作用素の理論が応用されている。 次に,より一般的な系として,一般のコンパクト群を構造群とする主ファイバー束上の接続が与えられたときの古典及び量子力学系の定式化(Guillemin, Uribe, Zelditch達)の見直しを行い,磁場(U(1)ゲージ場)の場合の量子-古典対応の諸結果を拡張した。すなわち,古典系におけるMaslov量子化条件と対応するエネルギー分布の関係,古典周期軌道の存在と対応するエネルギー分布の漸近的性質を考察した。この結果に関する論文は現在準備中である。
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