マゼラン星雲のような重元素の量が極端に少ない種族IIのガス雲について、星の形成と物質の存在形態を明らかにするために、次の研究を行った。 1.種族IIのガス雲では、宇宙線や紫外線の強度が大きく変化していると予想される。ガスの電離と加熱過程を明らかにするためには、これらに加えて放射性核種の壊変に伴うガスの電離率を求めることが重要である。さまざまな核種の寄与を調べた結果、長寿命の核種では^<40>K、^<87>Rb、^<232>Th、^<235>U、^<238>Uが、現在は壊変して存在しない短寿命の核種では^<10>Be、^<26>Al、^<41>Ca、^<53>Mn、^<60>Feなどが重要であることを明らかにした。これらによる電離(加熱)率を正確に計算し、宇宙線等による電離・加熱とその寄与を比較するためには、壊変に伴って放出される粒子によるガスの電離過程とこれらの核種の存在量をさらに詳しく調べる必要がある。現在、これに関する研究を鋭意推進している。 2.種族IIの組成をもつガスの化学進化を明らかにするためには、1の電離率に関する研究に加えて、温度が100K以上となる場合に対応した化学反応ネットワークを構築し、さまざまな物理的・化学的状態のガス雲について分子存在量の時間変化を求める必要がある。この反応データベースを構築・整備するために必要な基礎資料の収集を進めると共に、とりあえず、現有の反応ネットワークで計算可能な50Kまでの温度範囲について、密度と温度が一定のガス雲における分子存在量の時間進化を数値シミュレーションで求めた。その結果、計算できる温度範囲では、温度変化に伴う化学進化の違いは重元素量の変化が及ぼす影響ほど大きくないという暫定的な結果を得た。
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