研究の3つの柱として、(a)星密度の高い星団におけるスターバースト現象、(b)スターバースト後のレムナントの重力相互作用によるIMBH(中間質量ブラックホール)の形成、(c)IMBH間の重力相互作用によるSMBH(大質量ブラックホール)への成長、を考えてきた。本年度は、(b)の課題に集中し、現実的な恒星レムナントの空間分布および速度分布をスターバースト銀河M82のものでモデル化し、互いの重力相互作用によってIMBHが形成される時間スケールを評価した。恒星レムナント密度が非常に高いので遠隔2体相互作用に加えて3体衝突が重要になること、中心部の密度の高いコアの形成と周辺部に薄く拡がるハローが形成されることが明らかになった。しかし、3体衝突を考慮してもIMBH形成には時間がかかり過ぎるために、残されたガスの粘性抵抗を考慮しなければならないことがわかった。問題は、どれくらいのガスが残されるか、衝撃波の発生によってガスの粘性抵抗がどれくらい大きくなるかで、数値シミュレーションを行う必要があった。そのためのコード開発に主要な時間を費やすことになり、併せて、ガスの熱化によるX線放射も計算できるようにした。その結果、実際のM82のモデルと比べて相当大量のガスを超音速で降着させないと恒星レムナント同士が10億年内に融合しないことが判明し、現実的でない可能性が高くなった。残る可能性は、恒星レムナントの集団が引き起こすViolent Relaxation(激しい緩和過程)で、現在その物理機構と時間スケールを検討中である。この過程で、恒星レムナントの集中度のより高いコアがまず形成され、後にガスの粘性抵抗を受けつつ重力的な合体を起こすとすれば、ガス密度が低くても10億年以内にIMBHが形成されると期待できる。その計算を続行中である。
|