ビッグバンで作られた原始ガス中で形成された宇宙初期天体について観測的検証へむけての研究を行った。まず第一世代星形成過程について調べ、第一世代星形成を特徴づけるものとして重要である水素分子輝線およびHD分子輝線について放射強度を定量的に見積もった。その結果、第一世代銀河になる原子銀河雲のファーストコラップスに引き続いて形成される第一世代星では、通常の水素分子輝線による冷却が重要であるが、より大質量の銀河雲中での第一世代星形成過程や第一世代銀河でも次世代の星形成過程においては、HD分子輝線も重要になることがわかった。これは、水素分子形成の触媒となる電子が多いために水素分子が多量に存在し、その水素分子との交換反応によってHD分子が多量に形成されるためである。またLiH分子についても調べ、重要ではないことを明らかにした。また星形成の母体雲、つまり原始銀河雲とその収縮・分裂過程によって作られた星形成コアの前段階と考えられるフィラメント状のガス雲、の進化についても研究を行い、暗黒物質の影響が重要であることを示した。そして、宇宙初期天体形成過程で放出される分子輝線について総合的に評価を行った。宇宙初期天体形成過程において可能な星形成率を評価し、上記の研究と組み合わせることにより、次世代観測装置による観測可能性について議論した。特に、中間赤外線領域での感度が重要であり、大口径冷却望遠鏡であるSPICA(Space Infrared Telescope for Cosmology and Astrophysics)に対する期待は大きい。宇宙初期天体形成過程で原始ガスからの星形成が通常の銀河形成で期待できる程度の爆発的星形成率であるならば、SPICAによって検証できる可能性は十分あることがわかった。
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