本研究は小質量の超巨星として現れる脈動星の脈動の性質を調べるために必要なモデルの研究である。これらの脈動星は星の進化から見るとAGB段階で著しい質量放出を経験した後の段階にあると思われる。この著しい質量放出の機構は不明な点が多い。したがってその後の恒星進化も不確かな点がある。そのような段階にある脈動変光星が本研究の対象とするものでる。これらの脈動の性格が解明できるとこの脈動の性質からこれらの恒星についての情報が取り出せる。そのためには、これらの脈動星の外層のモデルを精度よく構築し、その外層の脈動を調べる必要がある。小質量の超巨星の外層は光度が大きく熱力学的に見ると非断熱性の高い輻射流体になっている。そのような流体での脈動では輻射輸送を精度よく取り扱う必要がある。本研究では多色輻射輸送のモデルを展望しつつこの点に焦点を当てて研究を進めた。さらに本研究では、脈動の線形解析と非線形シミュレーションの対応関係がつくように両モデルを整合性あるように扱うことにも留意している。線形解析からはどのようなモードが脈動不安定かがわかる。非線形シミュレーションではその不安定モードにより励起された脈動の有限振幅になったときの脈動の振る舞いが出てくる。この非線形脈動の振る舞いが観測と比較されるものである。以下本研究でこれまでに得られた成果を列記する。 (1)輻射流体の取り扱いの精度を上げる方法として、輻射輸送方程式のモーメントを流体力学の基本式に導入する方法で精度をあげることにして、出てきた動径脈動の流体方程式が線形解析、非線形モデルで取り扱えることを確認した。 (2)この輻射輸送方程式もいくつかの近似がとりうる。もっとも単純な近似をとるとこれが拡散近似であり、従来から用いられているものである。現在はこれより高い近似を採用した場合のモデルを調べている。この近似による線形解析の結果は一部公表している。ここでは対象としてpost-AGB星に現れる脈動を調べた。 (3)本研究では、最終的に多色輻射輸送を取り込んだ輻射流体による脈動を調べたい。そのためにコンピュータ資源として並列システムの利用が不可欠である。そのための予備的の研究として、小規模並列システムの計算効率を調べた。小規模並列システムが本研究を進める上で有効であることを確認している。
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