今年度は、主にすばる望遠鏡を用いた観測を行い、以下のような研究を行った。(1)Subaru XMM Deep Survey観測データを用いて、赤方偏移1の古い静的な銀河サンプルを構築し、その数密度、および色分布を研究した。その結果、近傍早期型銀河のプロジェニタと考えられる古い静的な銀河、とくに明るいものの数密度は、近傍早期型銀河の約7-8割に及び、赤方偏移1において、比較的大質量の早期型銀河の形成は終わっていたらしいことがわかったが、同時に、これに対して、比較的低質量の銀河については、特に高密度領域において同程度に古い平均年齢を持つ恒星種族が支配的な銀河の欠乏が観測され、銀河の質量・環境による進化状態の違いについて、重要な知見を得た。(2)すばる望遠鏡および補償光学装置を用いて、高赤方偏移クェーサーの母銀河を観測した。その結果、近傍クェーサー母銀河を静的に進化させた場合に比べると数倍以上暗い母銀河しか観測されないことが明らかになった。これは、クェーサー現象と銀河形成との関連について、一石を投じる結果である。(3)すばる望遠鏡によるハッブル深探査領域のKバンド深撮像データの解析を進め、一般的な領域においても質量に依存した銀河進化の様子をとらえることができた。太陽質量の数十億倍以下の比較的低質量銀河は、同じ時代には質量によらない青い色を示し、また、その色が連続的定率星形成を示唆する系統的な進化を示すことがわかった。(1)の結果などと合わせ、銀河進化の全体像に迫りつつある結果を得ることができている。(4)最後に、高赤方偏移のライマンα水素輝線ガスについて、その空間分布を調べる観測を継続して行い、また、既に赤方偏移3.1の原始銀河団領域において、天の川銀河に匹敵する以上の大きな広がりを示すライマンα輝線ガス天体の検出に成功するという大きな成果を上げた。
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