本研究の目的は、従来の有機溶媒をベースにした液体シンチレーターに関わるさまざまな問題点を克服するために、水をベースとした液体シンチレーターを開発することである。本研究では発光剤のみでなく、ベンゼン環を持った分子も同時に水に溶かすことにより、水ベースの液体中で素粒子反応が生じた場合でも蛍光発光を行う液体の開発を行った。ベンゼン環を含み、水に可溶な物質としては、本溶性芳香族物質と、ベンゼン環を含んだ界面活性剤があげられるため、そのような物質をリストアップし、それらと、発光剤であるPPO、bis-MSBなどを、様々な濃度の組み合わせで水に溶かし込み、^<60>Coからのγ線で素粒子反応に対する発光量の測定を行った。また、有意な発光量を持つサンプルに対しては、光減衰長、引火点、安定性などの測定を行った。最終的にベンゼン環をもった界面活性剤と発光剤を水に溶かし込むことにより、水含有量82%、発光量7.2%アントラセン、420nmの波長に対する光減衰長77cm、や水含有量81%、発光量4.0%アントラセン、光減衰長220cmなどの性質をもつ不燃性の液体シンチレーターを得ることができた。これらの性能は、原子核実験や高エネルギー実験などの信号の大きな実験では十分に使用可能な値である。一方加速劣化試験の結果、これらの液体シンチレーターには、1年半程度すると多少の劣化が見られることも判明し、今後の課題となっている。さらに、この液体シンチレーターを使用できる可能性のあるニュートリノ実験の計画も行った。
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