超対称性理論に基づく宇宙モデルにおいて、宇宙における物質・反物質の起源はどのように説明されるか、不安定粒子の宇宙論的影響などの問題に取り組んだ。 主要な成果としては、まず、バリオン数生成機構であるアフレック・ダイン機構のダイナミックスを有限温度の効果を取り入れて調べた。特に、ゲージ場が超対称性の破れを媒介するモデルにおいては、有限温度の効果によってアフレック・ダイン場のポテンシャルの形は大きな変更を伴い、場の期待値が大きなところでポテンシャルが極小になる場合があり、このような場合でのアフレック・ダイン場のダイナミックスとその結果生成されるバリオン数に関する系統的な解析を行った。その結果、有限温度とQボールの生成のためアフレック・ダイン機構によるバリオン数生成は阻害されるが、宇宙のバリオン数を説明できる理論パラメターが存在することが分かった。また、この研究に関連して一般のスカラー場がコヒーレントな振動を行う場合、その系の断熱不変性のために「I-ball」と呼ばれる球状の準安定なスカラー場の凝縮が生成されることを発見した。 また、超対称性理論では100GeV程度の質量をもち、重力のみでしか他の粒子と相互作用しないために宇宙論的な寿命を持つものが存在する。そのような粒子に対して、その質量・寿命・存在量に対する制限を求めた。特に長寿命を持つ不安定粒子が崩壊してハドロンを放出する場合に、ハドロンが宇宙のバックグランド・プラズマとの間の強い相互作用・電磁相互作用によって引き起こすハドロン・シャワー過程を定量的に評価しそれが宇宙初期の元素合成に与える影響を計算した。その結果、不安定粒子のハドロン崩壊は従来考えられてきた放射崩壊(光子を放出する崩壊)に比較してより厳しい制限を導くことが分かった。さらに、この結果を超対称性理論で予言されるグラビティーノに応用し、グラビティーノの存在量に対する制限から宇宙の再加熱温度に対する制限をもとめた。再加熱温度がMeVスケールの宇宙でニュートリノの熱平衡化過程を詳しく調べることによって、再加熱温度の下限を求めた。制限を求める際、従来考慮されていなかったニュートリノ振動がこの熱平衡化過程に重要な働きをし、このため従来の結果とは異なり再加熱温度の制限は約2MeVと厳しくなることが明らかになった。
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