広視野を常時観測できる空気シャワー観測装置は、チベット空気シャワー実験に代表されるようにTeV領域のガンマ線放射天体を観測することに成功している。しかしながら、次の重要なステップであるTeV以下のエネルギー領域を測定できる高密度な空気シャワー観測装置はまだ実用化されていない。また、高エネルギー荷電粒子の加速を捕まえる方法の一つは「かに星雲」からの100TeV領域のガンマ線を検出することであるが、感度を上げるには、二次粒子の分布や広がりから一次宇宙線の種類を推定することが重要である。この場合にも感応領域が高密度な装置ほど識別能力が上がり有利になる。いずれの場合にも装置のデータ量が増大し、トリガ頻度が飛躍的に高くなる。本研究は次世代高密度空気シャワー観測装置のための高速データ収集システムを開発することである。 本年度は、昨年度試作したTKO規格の電荷時間変換モジュール(DCT)の改良を行った。ADCゲート幅は最大2μs、分解能0.08pC/count、フルスケール14bit、変換時間10μsの当初予定の性能を達成するとともに、更なる低ノイズ化を実現した。このモジュールは現在チベット空気シャワー観測装置に組み込まれている。さらに、昨年度開発したFASTBUSからPCへのデータ取り込みをVMEを経由した分散並列データ処理をおこなう新しい発想のデータ収集システム開発のための基幹サブルーチン群の改良を行ない、安定動作と更なる死時間の減少を実現した。これらサブルーチン群は既存のチベット空気シャワー観測装置に適用されている。 これら2つの効果により、チベット空気シャワー観測装置の死時間は1700Hzトリガ時に10%となり、現在も安定動作している。これらの開発によって、将来における高トリガ頻度次世代高密度空気シャワー観測装置のデータ収集システムを構築することが可能となった。
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