当研究は、弦理論を構成的に定義することによって、例えば格子ゲージ理論におけるように、いろいろな物理量が少なくとも原理的には可能な数値計算によって求まるように、重力まで含めた究極の統一模型を構築することを目的とする。 当研究代表者は、このような観点から弦理論の非摂動的な定式化と、それから得られる量子重力の基本的な性質についての研究を進めてきた。実際、当研究代表者は、1996年からはじめた一連の研究によって、10次元の超対称ゲージ理論のlarge-N reduced modelが、実は、臨界弦の構成的な定義になっていることを示し、その力学的な構造を調べてきた。この理論は、IIB行列模型と呼ばれているが、自然な形で重力子を含むなど、弦理論の非摂動的な定義にふさわしい、いろいろな良い性質を持っている。また、このモデルは、時空自身をはじめとし、ゲージ群や世代の数などがすべてダイナミカルに生成されるという特徴を持っており、究極の統一模型にふさわしい性質を備えている。しかしながら、IIB行列模型には、一般座標変換に対する不変性があまり見通し良くないなどの弱点もある。現段階のIIB行列模型は、一応、弦理論の非摂動的な定義にはなっているが、もっと本質的で単純な理論が背後にあるのではないかと思われる。 今年度は、次の2つのことを中心に考察を進めた。ひとつは、IIB行列模型よりももっと基本的な理論、例えば、一般座標変換に対する不変性を明白にもつような行列模型を探すことである。もう一つは、弦理論のもう一つの定式化であるループ方程式と行列模型のより緊密な対応関係を樹立することである。 これらの蓄積の上に弦理論を構成的に定義することによって、実際の真空を定め、時空の次元をはじめ、ゲージ対称性、世代数などを説明して見せることが、そろそろ可能になってきているように思われる。
|