我々の世界を記述する究極の理論であると期待されている超弦理論の最も明確な予言は時空が10次元であるというものである。従って、なんらかのコンパクト化の機構によって我々の4次元世界とつながっていなければならない。このコンパクト化の機構としてブレーン宇宙が自然なものであるという示唆が超弦理論からもたらされた。この描像を宇宙背景輻射の観測によって検証することは非常に重要である。しかし、ブレーン宇宙における揺らぎの進化は自明でない背景場と時間変化する境界条件のために解くことが非常に困難であった。そこで、我々は低エネルギーにおける揺らぎの進化を扱う方法として微分展開法を開発した。この方法を使うことで宇宙背景輻射の温度揺らぎを計算することが可能となった。我々は低エネルギー展開法と共形不変性との関係を明らかにすることで、Kaluza-Klein補正を取り入れた有効作用の導出に成功した。我々の方法とは別にモジュライ近似と呼ばれる近似法があるが、今回2つの方法の関係を明確にし、低エネルギー展開法の利点を明確にすることができた。この近似法は弦理論的インフレーションモデルにおいてよく使われており、我々はその正当性を支持する結果を与えた。また、ブレーンモデル全体の包括的なレヴュー論文を発表した。よく研究されているブレーンモデルは余次元が1のものであるが、余次元2のブレーンモデルの定式化を行い、ブレーンの厚みがダークマターとして振舞う可能性を指摘した。
|