最近の宇宙背景輻射観測衛星WMAPによる観測結果はインフレーション理論を強く支持している。従って、宇宙論における最も重要な問題はインフレーションを引き起こすインフラトンの正体をつきとめることにある。一方、我々の世界を記述する究極の理論であると期待されている超弦理論の最も明確な予言は時空が10次元であるというものである。この理論は、なんらかのコンパクト化の機構によって我々の4次元世界とつながっていなければならない。このコンパクト化の機構としてブレーン宇宙が自然なものであるという示唆が超弦理論からもたらされた。我々は、このブレーン宇宙描像をもとにインフラトンの正体を幾何学的に明らかにした。具体的には、我々の開発した低エネルギーにおけるブレーンの進化を扱う方法である微分展開法を使って、4次元有効理論をつくり、衝突するブレーン宇宙モデルを解析できるような定式化に成功した。特に、ブレーン衝突の影響を5次元の保存則を使って明らかにした。インフラトンとしてスカラー場を導入することなく幾何学的なインフレーションモデルの構築を行った点が重要な点である。我々の提案したモデルでは、インフレーションはバルクのフラックスによって引き起こされ、ブレーンの衝突によって終了する。この衝突時のエネルギーが熱に転化されてビッグバン宇宙が始まると考えられる。このモデルを基礎にして、インフレーションによる揺らぎの生成と進化を研究し、現在の観測と矛盾しない結果が得られることを示した。
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