二次元ホール電子系でトポロジカルなスピン励起(スキルミオン)が観測されていることや、分数量子ホール効果の記述にチャーン・サイモン理論が使われていることに見るように、低次元電子系はゲージ理論の実用の場となっている。このような状況を踏まえて、平成14年度にはゲージ理論の枠組と手法を駆使して、分数量子ホール効果の多様な側面を研究した。その内容は以下の通りである。 1.研究代表者は既にW_∞ゲージ理論の枠組とボゾン化の手法を組み合わせて、非圧縮性状態の電磁応答から分数量子ホール効果の長波長実効理論を構築するアプローチを開発した。この理論の特徴は、非圧縮性という量子ホール状態の特質に着目して、通常の(複合ボゾン/複合フェルミオン描像に基づく)チャーン・サイモン理論とは独立した論理で分数量子ホール効果の実効理論を構成する点にある。今年度にはこの実効理論を二層量子ホール系へ適用し、その真価を確認した。実際、チャーン・サイモン理論には二層系に特有な集団励起のスペクトルを正しく取り込めないという困難があることが以前から指摘されていたが、我々のアプロチでは単一モード近似による集団励起の微視的理論の結果を正しく取り入れた実効理論が構成できた。 2.さらに同様の考察を(近年実験理論両面から強い関心のもたれている)二層間コヒーレンスが出現した層系にも拡張した。 3.これらの考察を通して、量子ホール系に単一モード近似を適用すると一般に複合ボゾン理論(の変形版)が得られることに気づいた。目下、この観点から量子ホール系の素励起及び集団励起の統一的な記述を実現する実効理論の構築を進めている。
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