研究概要 |
本研究の目的は有限密度且つ有限温度系におけるカイラル相転移およびそれに密接に関連するカラー超伝導への相転移の特徴とその前駆現象を総合的に解明し、その実験的検証方法を明らかにすることである。 (1)非線形シグマ模型の枠組みで上記のカイラル対称性の回復がどのようにシグマやロー中間子のチャンネルの強度関数に反映されるのかを明らかにした。 (2)(d,^3He)反応や(d,t)反応を用いて、シグマ中間子を原子核中に作る過程の断面積の入射エネルギー依存性を計算し、実験による観測可能性について議論した。 (3)深く結合したパイ中間子原子核の現象と核媒質中でのパイ-パイ散乱強度のソフト化を統一的に記述する概念として、パイ中問子の波動関数くりこみの重要性を指摘した。 (4)クォークの量子的な励起の自由度を含めた格子QCDのシミュレーションを行い、ロー中間子と同程度の質量を持つスカラー中間子が存在し得ることを示した。 (5)有限温度でのカイラル相転移の前駆現象として、臨界温度より上でのソフトモードの効果によりクォークスペクトルが大きく変化する可能性を見出した。 (6)これまでのCSCの研究では取り入れられなかったベクター型の相互作用(VI)の効果を調べ、理論的に許容されるV-Iの強度な範囲で、2つ目の1次相転移点の終点が現れる可能性があることがはじめて示された。 (7)100MeV程度以上まで温度が上昇する重イオン衝突でCSCの検証可能性を探るために、その正常相での対場の作る集団モードの特性を調べ、前駆的なゆらぎの領域が通常の超伝導に比べて10倍以上も大きく、カラー超伝導体の特性は高温超伝導体に近いことを示唆した。 (8)カラー超伝導の前駆現象の例としてクォークの状態密度がフェルミエネルギー付近で以上に減少すること(擬ギャップ形成)の可能性をはじめて明らかにした。
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