研究概要 |
カイラル有効理論から原子核内中間子の状態を理論的に予言する事は、実験的検証が可能な現状では極めて興味深い事であると考えられる。当該年度には、η中間子原子核の研究が実施され、N(1535)バリオン共鳴の核内での性質と、η中間子原子核について大変興味深い結果が得られた。特筆すべき点は、Ciral Doublet Modelがη中間子に対する斥力Potentialを予言する事、及びChiral Unitary ModelとChiral Doublet Modelの現象論的帰結に大きな差異がある事である。同じ'Chiral' Modelがこれほど異なる結果を出すと言うのは単純に大きな驚きであった。本研究報告では(d,^3He)反応における生成断面積の理論計算も報告しており実験的な検証が待たれる。 中性子/陽子過剰のβ不安定原子核の研究は、現代原子核物理学の大きな研究テーマの1つであるが、不安定核生成には中間エネルギー領域の加速粒子が使われる事から「不安定核におけるハドロン物理」研究の可能性はごく初期から考えられていた。もちろんビーム強度の問題があるために実現は簡単ではないが、古くから様々な議論がなされている。当該研究期間中には、不安定原子核で一般的に存在すると期待されるいわゆる中性子ハロー状態が、π中間子原子の生成断面積にどのような効果を及ぼすか定量的に研究した。π中間子原子の波動関数と中性子波動関数とのオーバーラップが増加する事により、生成断面積が有意に増加するとの結論が得られた。これは、RIKENやGSI研究所で建設/計画中の次期不安定原子核生成加速器における実験可能性を議論する上で重要な結論である。
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