研究概要 |
2重β崩壊の探索はニュートリノの本性に関わる重要な物理を含んでおり、これ迄にも世界の各所で行われてきた実験課題である。多量の^<100>Moを用いたNEMOIIと称する最近の実験計画は、飛躍的に高精度の結果を目指しているが、これの達成には環境におけるバックグランドの低減とその正確な見積もりが不可欠である。中でもウラン系列の^<214>Biとトリウム系列の^<208>TIは^<100>Moの2β崩壊の主要なバックグランドと目されており、その親核である気中の微量ラドン・トロンの測定は極めて重要である。田阪らは、これらの娘核であるポロニウムの90%以上が正に帯電する性質を利用して、静電捕集による高感度の検出法を提案した。これによると、検出効率は主として被検気体の容量に依存しており、トロンの娘核のように短い半減期をもつ核種の場合には、逆に検出効率の相対的低下を招く。この研究課題は、これらの短寿命核種をより効率よく検出する方法を開拓することである。われわれは、静電捕集型のラドン検出器が優れた性能を有していることに着目し、この方法をベースにPDに代わるより大面積の検出器を迫求する。現在、α粒子に比較的感度の高いCsIやGSOなどの無機シンチレータの利用を検討している。ところで、静電捕集型ラドン検出器の振舞いのいくつかは物理的に興味深い。例えば、Hopkeらが見出した湿度による検出効率の低下は、ポロニウム・イオンが水分子を静電付着しつつ電極であるPDに移動するモデルで説明できる。われわれは、これを定式化してHopkeらの実験式が再現することを見出した。アルコールが存在しても同様な検出効率の低下が起こるが、これはポロニウム・イオンの中和現象として理解できる。その他、空気以外の環境(He,Ar,N_2)での振舞いも一定の解釈をした。われわれはゲルマニウム検出器を使ってラドンとトロンの線源に閃ウラン鉱とマントルがそれぞれ適していることを見出した。以上の成果の一部は、昨年11月米国Norfolk市で開催された国際会議、IEEE2002NSS/MICにおいてポスター発表した。次年度からは新しい検出器の開発に本格的に着手する
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