ウラン/トリウム系列の娘核であるラドン/トロンは、二重ベータ崩壊実験の主要なバックグランド源と同定されており、実験に用いるドリフトチェンバーのヘリウムガス中にも極く微量ではあるがこれらが含まれているとされる。その濃度を定量できる測定器として、従来の静電捕集型と、気体電子増幅型の2通りが考えられた。どちらの測定器も古くから研究されているが、核種が同定できる分解能を有する前者の方がより簡便である。平成14年のNEMO-Collaboration Meetingで大隅が行った報告:Radon Detector and Measurement in He Gas:を参照。しかし一方で、ヘリウムと混合させるアルコールなどのクエンチングガスが検出効率の低下を引き起こす可能性が考えられる。また、寿命の短いトロン系列の核種は必ずしも静電捕集に相応しくない。この点だけからすると後者、すなわちGEM(Gaseous Electron Multiplication)を利用した検出器は若干有利であろうと思われた。この年度の研究は、この両者を並列して進めることにした。前者に関しては、先ず露点計を製作した。冷却されたガラス面の反射率は、環境中の気体の露点温度で僅かに変化する。これを利用してその気体の絶対湿度を導出する。露点計のプロトタイプをテストしたが、予想した通り再現性が悪かった。ガラス面の状態復帰を迅速に行うと同時に、感度の向上を目指して目下改良中である。GEMは両面に銅を蒸着させたカプトンフォイルに直径100ミクロン程度の貫通穴を多数設けたものである。両面にかけた電位勾配で気体の電離電子をアバランシュ増幅させる。この年度は、チェンバーとしてCERNで製作された従来品と、プラズマエッチング技術で加工された国産品を平行してテストした。前者と後者では、貫通部の形状が異なり、後者の方でより高い電子増幅が期待された。テストはKEKと広島で電子ビームを使って行われた。ガスはヘリウムではなくP10(アルゴン+10%メタン)であった。ヘリウムについては線源によるテストを予定している。結果の一部は佐賀大学の修士論文にまとめられている。
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