研究課題
基盤研究(C)
二重β崩壊の探索のような地下実験において、主たるバックグランドをもたらすものは環境における放射性物質、特にトロンの娘核である^<208>Tlである。地上にあって影響が大きいラドンは、地下においては空気のフィルタリングを重ねることで十分低減できるという。ラドンの壊変はトロンに比して長寿命で進行するために、その検出は比較的容易である。過去の研究においては、高い検出感度を目指して大容積の静電捕集型検出器が製作され、これを用いて10mBq/m^3の測定が可能となった。NEMO-3実験では2βの実質的な検出をドリフト・チェンバーで行っているため、使用する気体(He+少量のArとアルコール)中の放射性不純物のみならず、試料とする物質の他材質としてのあらゆる物質にそうした源が存在し得る。それだけにバックグランドを正確に定量することは難しい。とはいえ、バックグランドの測定に利用できてある程度の信頼性もある検出器は、静電捕集型のものを措いて他に適当するものが見当たらない。故に、先ずは1lという小容積の検出器を用いて、検出効率の温度特性をはじめ諸々の特質を調べてみることにした。検出している核種がラドンあるいはトロンの壊変物質であることを保証すべく、それらの娘核の平均寿命測定も行った。検出器は外気の流入が可能な構造であるため、この部分を封じるかまたは一回り大きなアクリル製容器に収納して測定した。半減期測定に関する両者の結果の比較を行った。今回の測定は空気中のラドンやマントルの弱いトロン源を用いたため、適当な線源とより大型の検出器を用いて他所で得られた結果とは精度において劣る。我々の測定精度は3〜4%のレベルであった。しかし、これ以外の種々の情報を得やすいという点で、こうした小型の検出器もむしろ有用かも知れないと思っている。^<218>Poのようなラドンの娘核は酸素と結合して正にイオン化する傾向にある。このイオンはまた水分子とも結合しやすく、有限の寿命によって検出されるまでに崩壊することもある。過去にラドンの検出の湿度効果としてChuとHopkeにより報告された実験結果があるが、我々はこれとは別にイオンの移動度の減少という観点から同じ効果の説明を試みた。また、α線の検出率の温度変化を測定し、我々が推論で得た結果(これはChuとHopkeの実験式を再現する)との良い一致を確認した。我々が測定したのは湿度としての水蒸気のみであったが、類似する事情はアルコール蒸気についても成り立つと思える。アルコール蒸気はドリフト・チェンバーのクエンチング気体として用いられるので、その測定も重要である。チェンバーガス中に含まれる重要なバックグランド源として認識されているトロンの娘核^<208>Tlについての研究もまた将来的に重要である。
すべて 2005 2003 2002 その他
すべて 雑誌論文 (10件)
Nuclear Instruments and methods in Physics Research A 536
ページ: 79-122
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A536
Contribution paper at 2002 IEEE NSS, Norfolk
Nuclear Instruments and methods in Physics Research A 503
ページ: 649-657
Nuclear Physics A 721
ページ: 529c-532c
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A503
Nuclear Physics(Presented by H.Ohsumi) A721
Nuclear Instruments and methods in Physics Research A 482
ページ: 832-839
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A482