1、ここ数年の超弦理論の非摂動的な振る舞いの研究から、「膜の世界」という考えが発展してきた。もしこの考えが正しいならば、素粒子物理学の多くの未解決な問題、例えば、階層性の問題、余分の次元のコンパクト化の問題、宇宙項の問題、超対称性の問題などが明らかにされると期待されている。「膜の世界」において、色々な場の膜上の局在化の問題を考察し、上記の未解決の問題を解明しようというのが本研究の目的であった。「膜の世界」の考えに従うと、我々の世界とは高次元の世界に埋め込まれた4次元的に広がった膜である。このとき、我々の次元である4次元以外の次元は、従来のカルツァークラインのコンパクト化の考えのように、小さく丸まって、マクロ的には見えなくなる必要はなく、無限大の体積を持っていると考えられている。このために、今までの超弦理論において、最も難しい問題であった余分の次元のコンパクト化の問題が自然に解消している。しかし、その見返りとして、高次元に存在している色々な量子場が、4次元の膜上に局在化することを証明する必要がある。本研究においては、我々の世界に存在している色々な量子場がどういったメカニズムで4次元の膜上に局在化されるかという問題について解答を与えた。 2、超弦理論から自然に出現する場として、計量テンソルと含まないトポロジカルな場がある。この場がある場合、素粒子に質量を与えるメカニズムであるヒッグス機構が変更を受けることを指摘した。つまり、トポロジカルな項の前の係数だけ、ゲージ場の質量が変化する。実験と矛盾しないようにするためには、この係数は小さな値をとる必要があることも指摘した。また、新たに質量ゼロのスカラー場が出現する事も、理論を量子化することによって証明した。 3、最近、バーコビッツによって、超弦理論や超膜理論がローレンツ共変な形で量子化できることが指摘された。これは、「膜の世界」を量子論的に理解するためにも極めて重要な研究である。私は、イタリアのパドヴァ大学のグループとの共同研究を通じて、この仕事をさらに発展させた。例えば、バーコビッツの理論の起源となる理論を作り、それをゲージ固定することによって、バーコビッツの理論が導けることを古典的な範囲で証明した。
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