今年度は「膜の世界」の研究に関連して、主に2つの研究を行ってきた。 1、「膜の世界」のアイディアが現実に実現されるためには、我々の世界を記述している4次元膜上に色々なスピンを持った局所場が局在化される必要がある。この局在化を引き起こす機構として最も自然なものは、恣意的な外力を手で加えるのではなくて、重力相互作用に起因する引力だけを使うことである。しかし、そのためには余次元が2の渦糸タイプのブレーン解を使う必要があることを以前、私が証明した。しかし、オリジナルな膜の世界のモデルは余次元が1のときに定式化されていて、しかもこの場合に現象論的に最も面白いことがわかっている。だから、今までのやり方では、この余次元1のオリジナルなモデルは理論的に排除されることになる。この問題を回避するために、重力相互作用だけを使った全く新しい局在化の機構を作った。この機構では、ワープ因子は指数関数的に減衰するのではなくて、多項式的に緩やかに減衰するが、確かに4次元膜上にすべての局所場が局在化されることを証明することができる。 2、昨年度、グリーン・シュワルツの第一量子化された超弦理論のローレンツ共変な量子化の問題について、イタリアのパドヴァ大学のグループと共同研究を行い、2本の論文を出版した。今年度は引き続きその研究を行列模型の分野に発展させた。この分野の研究として重要なことは、11次元のM理論に対応するローレンツ共変な行列模型を構成することである。新しく開発されたビューア・スピナーを用いた理論は自然な形で、超膜理論にも拡張できるので、この理論を量子化することによって、11次元のM理論に対するローレンツ共変な行列模型を構成しようとした。しかし、残念ながらBRST不変性の要請を課すと、この膜の理論はそのままでは存在できず、11次元の超粒子に対するローレンツ共変な行列模型になることを証明した。
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