研究概要 |
これまでと同様,量子系のダイナミクスを,量子計算や量子情報で特に問題となる量子コヒーレンスの維持,回復という観点から調べてきた. このうち,量子測定(スペクトル分解)過程を介したダイナミクスによって量子系の純化あるいは量子絡み合い状態の抽出を目指すという手法に関しては,実際的な応用を念頭に引き続き検討を加えた.この手法の特徴は,高い信頼性(fidelity)と有限の収率(yield)の同時実現可能姓と,枠組みの柔軟性を反映した広い適用可能性にあるが,まず,量子ゼノンダイナミクスと組み合わせることでこれまで以上に多様な量子状態がこの枠組みを通して実現可能であることを明らかにした.また,離れた2qubit間に量子絡み合い状態を抽出するための(測定回数を可能な限り抑制したという意味において)最適な手続きを提案した.さらに,半導体積層量子ドット系を用いて実際の実験室でこの枠組みを実証するための提案を行った. その一方で,現実の物理系にこのような枠組みを適用しようとした際には様々な非理想的状況を考慮する必要に迫られる.その直接的反映が量子コヒーレンスの喪失(デコヒーレンス)であり,散逸やデコヒーレンスを伴うダイナミクスを取り扱わなければならない.まず,散逸的ダイナミクスを記述するマスター方程式としてよく用いられるLindblad型方程式に対して新たな解法を考案した.この解法では,従来のようにマスター方程式を行列要素間の連立方程式に書き下すことなく,行列(演算子)の形で解が与えられるため,物理的意味や内容が理解しやすく,応用的な観点からも有用である.実際,この解法を用いて上記の量子状態純化法の散逸的環境下での有効性を検討している.さらに,マスター方程式自体に対しても,これまで見過ごされてきた暗黙の仮定に焦点を当てて,再吟味に着手している.
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