研究概要 |
近年,宇宙初期や重力理論に対する考え方を一新するような概念「ブレイン(brane)」が登場した.このブレインという概念はこれまでのKaluzaとKleinによる高次元世界の考え方を大きく変えた.つまり,ブレインの存在は余分な次元のサイズを比較的大きくすることを可能にし,その検証可能性を与えたことで一躍注目されている.さらに,RandallとSundrumによる2つのモデルは,新しいタイプのコンパクト化を与え,特に第2モデルは余分な次元をコンパクト化せずニュートン重力を導いたことで多くの科学者の注目を浴びることになった.このモデルは従来のKaluza-Klein的コンパクト化とは大きく異なる側面を持っており,多くの宇宙論・相対論研究者が新しい宇宙像を求め,いろいろな宇宙モデルをもとに研究を行っている.そのような状況で,このブレイン重力理論を基礎にした宇宙初期モデルおよびブラックホールや重力崩壊などの強重力現象を系統的に解析することは重要であり,本研究では,第一線で活躍する2人の研究者とともに新しい宇宙像の構築を試みている. 特に宇宙論としては,最近ビッグバンにつながるブレイン宇宙モデル(エクピロティツク宇宙シナリオやピロテクニック宇宙シナリオ)が注目されている.2つのブレインが衝突し,その結果として宇宙の膨張が始まると考え,宇宙の一様性や地平線問題を解決するモデルであるが,その多くの部分はよくわかっていない.そこで本研究ではブレインの衝突やそれに伴う密度揺らぎの形成などの詳細な解析を行い,それらがインフレーション・シナリオを超える新しい宇宙初期のシナリオとなるかどうかについて考察している.2人の海外研究者(D. Wands D. Langlois)と具体的な解析を行い,その成果を学術論文にまとめた.今後はこれをもとに,ビッグバンにつながるブレイン宇宙モデルの可能性・問題点を明らかにしたい.それによってこの宇宙モデルがインフレーション理論を超える新しい宇宙初期のシナリオとなるかどうかについて考察する予定である.また,バルクにヤン・ミルズ場がある場合の5次元静的球対称解を求め,宇宙初期特異点のない振動宇宙モデルを提案した.さらに,ブレインにおける物質の量子効果を考慮したモデルのブレイン上の4次元有効理論を導き,それが宇宙初期や現在の加速膨張にどう影響するかについて解析した.
|